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昔の彼に俺は似ていたらしい[中編]

この体験談は約 8 分で読めます。

それからは、俺は仕事も頑張るようになった(今まで怠けてたという意味でなくて)。
俺の仕事の話を、なつこさんは嬉しそうに笑って聞いてくれた。
毎日、今日はどんな仕事したとか、こんなお客さんがいて、とか。
怒られたとか褒められたとか、先輩や上司はこんな人で、とか。

「はる君が大人になっていくのが嬉しい」
「一生懸命真面目に働いてイキイキしてるのが嬉しい」
「エッチが大好きなとこも可愛い」

そう言ってくれる時、なつこさんは、なぜか寂しそうな表情になることがあった。

エッチは原則、週末だけになった。
それは結局、半同棲が始まる前とあんまり変わらないんだけど。
なつこさんに気持ちよくなってもらうために、俺の前戯が少し長くなった。
それに、やろうと思えばやれる平日を乗り越えて迎える週末のエッチは気持ちいい。

・・・と言っても平日でもしょっちゅう俺は、なつこさんの部屋でオナニーをしてた。
なつこさんが居る時でも、というか、むしろ居る時にオナニーする。

「エッチしてもいいし、口でしてあげてもいいよ」と言われるけど、なんとか拒否した。

でも時々生おかずになってくれた。
実を言うと我慢できずに平日にやりまくったこともあるんだけど。
そんな時もなつこさんは、喜んで何回でも相手をしてくれた。

甘すぎるくらいに優しいなつこさんだけど、一回だけひどく怒られたことがある。
俺が手術することになったとき。
仕事中、いぼ痔が切れてパンツを血まみれにしてしまったので、肛門科に行った。
「根治させたいなら手術しなきゃね」と、お医者様に言われ、そうすることに。

その話をなつこさんにした時、『俺はいぼ痔だ』と言う前に、冗談でこんなことを言った。

「手術しないと助からないって言われた、どうしよう」

ちょっとびっくりさせよう、と思っただけなんだけど。
なつこさんは本気で青ざめて今にも泣きそうになった。
慌てて、『いぼ痔で入院するだけ』って言ったら、なつこさんがキレた・・・!

「冗談でもそんなこと言うなあっ!二度と言わないで!死なないで!」

ぼろぼろに泣き始めたなつこさん。
動揺した俺は「ごめん」の一言しか言えなかった。
なつこさんも「ごめん」と言ってた。

入院生活は一週間くらい。
たかが“いぼ痔”だけど、俺にとっては生まれて初めての入院。
心配してわざわざお見舞いに来てくれる人が何人かいた。
もちろんなつこさんも。
乳首は小さいけど彼女は毎日顔を出してくれた。

一度、わざわざ遠くから母親が様子を見に来た。
なつこさんと鉢合わせしてしまって(初顔合わせ)、俺はすごく気まずい思いをした。
でも思ったよりにこやかに挨拶しあってる2人。
うちの家族となつこさんが急接近したように思えて、急に、結婚とか!・・・そんな意識が芽生えてドキドキした。

(そうか、俺、たぶんこのままなつこさんと結婚するんだよなー)

そう思うと何だかニヤニヤしてしまった。

手術した日と翌日は全く動けなくて、おしっこも管に繋いでた。
3日目以降もお尻が痛くて、肛門あたりが常に緊張状態。
朝起ちとかの自動的な勃起はするけど、お尻が痛くてエロ気分になる余裕がない。
俺は初めて、一週間以上オナニーも射精もしない日々を過ごした。
なにかと世話を焼きに来てくれるなつこさんに、冗談で、「エッチな世話もして」なんて言ってたけど、実際にはそんな空気は流れなかった。

退院前日、なつこさんが、友達らしき女の人を連れてきた。
来る途中で偶然出くわしたらしい。
なつこさんに『彼氏のお見舞いに行くんだ』と聞いて、興味があってついてきたって感じ。
なつこさんも久しぶりに会ったという、あきこさんという人だった。
俺は初対面。

あきこさんは俺の顔を見てこう言った。

「なんか“春ちゃん”に似てる」

なつこさんが慌てて、“その話はしないで”という風に制したみたいだけど、でも、あきこさんは構わず話を続けた。

「へえ、名前も“はる君”っていうの?顔も似てるし、ほんとあの頃の春ちゃんみたいだあ」

“春ちゃん”なる人物を俺は知らない。
2人が話してる雰囲気で、男性ということだけ何となくわかった。
俺は半分寝てたので、2人だけで昔話をしてる感じなのを、ぼんやり聞いてた。

あきこさんが、なつこさんにボソっと言った。

「生まれ変わりだったりして・・・」

・・・春ちゃんなる人物が、どうやら亡くなっていることを悟った。
俺とそんなに変わらないくらいの若さで亡くなったみたい。
いつ亡くなったかはわからないけど、俺が生まれる前ということはないと思う。
なら生まれ変わりって言葉は不適切だなあ。
でもそんな言葉のあやより、無言で無表情になったなつこさんの様子が気になった。

そして、来たばかりなのに2人は帰ってしまった。

“春ちゃんという男性が若くして亡くなったらしい”という情報しか俺には残らなかった。

俺を含めないで2人でこそこそ話してただけなので。
『春ちゃんって誰?』と聞けるタイミングも、空気も、そこにはなかった。

翌日、平日の午前中なので1人で、退院して家に帰った。
春ちゃんて誰なんだろう?
そんなに俺に似てるのかな?
気になったけど、俺が考えていたのはそんなことより、次はいつ、なつこさんとエッチするかな!ということだけだった。
春ちゃんのことは、すぐに考えなくなった。

入院中一度も射精してないので、キンタマがウズウズしてた。
オナニーはしようと思えば出来るけど、なつこさんとエッチしたい。
でもまだお尻に痛みと違和感があって、本番エッチとか激しい運動はしないほうがよさげ。
成り行きでここまで溜めてしまったから、オナニーするの勿体無いし・・・。

せっかくだから次のエッチまで我慢しよう。
一気に全部、なつこさんに気持ちも精液もぶつけたいと思った。
濃いのが勢いよくたくさん出るだろうな。
なつこさんびっくりするかな。
いつもみたいに呆れながらも笑って喜んでくれるかな。
そんなことをワクワク考えてた。

ということで、お尻の痛みが弱まるのを待ちながら、オナニーを我慢してみることに。
でもエッチしてもしなくても、少しでもなつこさんに会いたかったので、電話してみた。
すると、「しばらく仕事が忙しくなるんだ」と言われた。
それまでどんなに忙しくても、会いたいと言えばわがままを聞いてくれたなつこさん。
まして俺は病み上がりだから、甘えさせてくれて、ベタベタできると思ってたのに。

会えないと言われてちょっとショックだった。
でもちょっとは大人になったつもりの俺は「しょうがないね、いいよ」と余裕を装った。
むしろ間を置いて会うのが楽しみ、という気持ちも少しあった。
次にエッチするまで精子を温存しておく、という目標があったので。
そしてどっちみち俺も、仕事が忙しくがんばらなきゃいけなかった。
新人のくせに一週間も仕事を休んだ分、評価を取り戻さないといけないってことで。

そして退院して一週間後くらいの休日、なつこさんに電話をすると彼女は出なかった。
しばらくしてメールで、『会えなくてごめん』という言葉が届いた。
いくら忙しくても近所なんだし、休日なんだし、ちょっとも会えないわけない。
やりたい気持ちも、もう限界でイライラしてた。
直接なつこさんの部屋に行ってみることに。

なつこさんは部屋にいた。
久しぶりになつこさんの部屋の匂いを嗅いで、それだけで俺は勃起した。
でも、なつこさんが泣いてるのに気付いて、ちんこは萎んでしまった。
彼女の目は腫れてて、ずっと1人で薄暗い部屋で泣いてたんだってことがわかる。
俺はどうしたらいいのかわからなくて、何も言えなくなった。
いつもみたいにテレビ見ながらくつろぎ始めた、ふりをした。

なつこさんが静かに「ごめんね」と呟いて、そして・・・。

「もう別れようね」

(・・・!)

その一言を聞いた時、混乱して色んな気持ちが入り混じって、わけわからなくなった。
疑問やら驚きやら怒りやら、あと行き場のなくなった性欲とか。
何で?乳首が小さいから?と聞き返すことすら出来なくて、怖くて何も言えなかった。
ノーリアクションの俺に構わず、なつこさんは独り言みたいに話し始めた。

なつこさんは数年前、幼なじみの彼氏と付き合っていたのだった。
それが“春ちゃん”という男性だった。
お互い子供の頃からよく知ってるので、付き合い始めから結婚前提だったみたい。
ある日突然遠くに行ってしまった春ちゃんが、まだ忘れられないと。

なつこさんは、『死んだ』とは言わなかった。
この間のあきこさんの台詞からして、亡くなったことは確かだと思うんだけど。
なつこさんがそう言わないので、何で亡くなったのかはまだわからない。

なつこさんは「ずっと春ちゃんのことを引きずっているんだ」と言った。

名前が同じで見た目も似てる俺に、彼を重ね合わせてたみたい。
重ねてしまう自分を否定して、なるべく考えないように頑張ってたそうだけど。
病室で寝てる俺を見てて、その思いが溢れてきて止まらなくなったと。
病室で連想するってことは事故か病気で、やっぱり亡くなったんだろうな・・・と俺は想像した。
そしてあきこさんから、俺が春ちゃんに似てるっていう客観的な事実を聞いたこと。
それがトドメだったみたい。

「はる君は、春ちゃんの代わりなんだよ」

静かに、でもはっきりと、なつこさんはそう言った。
なつこさんにとって俺は、春ちゃんの代替品なんだと。
それをはっきりくっきり自覚してしまって、自分の中で認めてしまったんだと。
だからもう俺と付き合えないんだ、そんな気になれないんだと。
俺は相槌を打つだけで、ほとんど黙って聞いてるしかなかった。

「私が1人でしてるかって、はる君が聞いたことあったよね?」

ここで突然、初めて問いかけの形になった台詞をなつこさんが言った。
ハッとしてなつこさんの顔を見た。
言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
『なつこさんはオナニーしないの?』って聞いてしまった時のことを言ってるみたいだ。

「ほんとはしてたよ」と、なつこさんは無表情でつぶやいた。

いつもの、エッチな話をする時はちょっと照れてしまうなつこさん、じゃなかった。
なつこさんの泣き方が激しくなってきて、涙と言葉がぼろぼろと溢れてきた。

「はる君とエッチしてても、春ちゃんのことばっかり思い出しちゃうんだよ。春ちゃんとは2回しかしてないのに、その時のことばっかり。はる君とは、何回も何回もしたのにね。気持ちよくて大好きだったのに。春ちゃんとの、全然気持ちよくなれなかったエッチばっかり、思い出してたんだよ。春ちゃんを思い出しながら、はる君のちんちんで気持ちよくなってただけなんだよ」

「これってオナニーだよね、私、はる君のちんちんでオナニーしてたんだよ・・・!」

・・・なつこさん号泣。
この辺から俺も一緒に泣いてしまった。

俺はなつこさんとのエッチが、自己満足のオナニーだと気付いて反省したことがある。
でも相手の体を使って、セックスという名のオナニーをしてたのは、なつこさんも?
俺の性欲にとことん応えてくれた彼女がそうだとは、俺にはどうしても思えない。
でもなつこさんにとっては、俺と同じ、自分本位だったのかな・・・。

初エッチの時のことを思い出した。
一回だけ『はるちゃん』って呼ばれた・・・。
なつこさん泣いてた・・・。
あっ、そういうことか・・・。

あの時、なつこさんは、俺とじゃなくて、『春ちゃん』としてたんだ、たぶん無意識に。

俺を「はるちゃん」と呼ばなくなっても、ずっとそのつもりだったのかな。
それをオナニーと表現したのかな。
そうだとしても、それを俺なんかが責める資格はなかった。
もちろん責めるつもりもないけど。
なつこさんのは大事な人を失くした思い出で、俺のはただの子供のわがままなので。
そんなの比べるわけにはいかない。

・・・今までにないくらいに、なつこさんはたくさん話をした。

「ほんとは、大人になってくはる君を応援していたかった。そうなるはずだった春ちゃんだと思って、はる君をそばで応援したかった。春ちゃんは社会人になる前に居なくなったから。春ちゃんが今もいたら、こんなふうに頑張ってるかな、って思った。頑張ってるはる君が、春ちゃんと重なって、嬉しくて、悲しかった。エッチなことも、春ちゃんと出来なかった分、はる君とたくさんしたかった。今までそうだったけど、これからもそうしたかった」

「でも・・・」と、なつこさんは言った。

「春ちゃんと似てるから好きになったなんて、はる君に悪いよ。もう春ちゃんのことは、忘れないといけないと思う、だからもう、・・・」

<続く>

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