言葉遣いのきれいなピンサロ嬢

この体験談は約 7 分で読めます。

転勤して田舎町に越してきた。
といっても県庁所在地なので、生活するにはそこまで不便ではない。
引っ越し後数週間が経ち、そろそろ裏の町の探検でもしようかという余裕が出てきました。
基本的に私はお酒がダメなので、歓楽街に足を踏み入れるのは純粋に風俗店探しのため。
歓楽街が開くのに合わせて行動するため、必然的に夕方以降になります。

まだ人の少ない飲み屋街(その場所は遠い昔の遊郭だったそうです)の片隅をぶらぶら歩いていると、風俗店とおぼしきお店を発見しました。
『ただいまの料金◯◯◯◯円』という看板からして古いお店だと分かります。
外には中年の男性が、通りがかる男性にダメ元で「いかがですかぁ?」と声を掛けています。

良い事かどうか分かりませんが、風俗店に行く回数を重ねるにつれて、私は初めてのお店の男性従業員さんとも親しく話せる余裕が出来ていました。
(昔は考えられなかったが、風俗の男性従業員と仲良くなると、なんだが随分大人になったんだなぁって感じたw)

で、そのボーイさんに声を掛けてもらったのに応じて、お店の詳細を聞きました。
普通に会話してくれる通行人が珍しかったのか嬉しかったのか、ボーイさんは非常に熱心に、かつ丁寧にシステムを説明してくれました。
お店はピンサロで若い子もいる。
入場料はサービスしておくとのことでした。

都会に住んでいた頃は絶対しなかった“飛び込み入店”ですが、そのボーイさんが悪い人に見えなかったので、今日はそのお店に入ってみることにしました。
これが人生初の“写真紹介なし”のお店でした。

お店の中は『ザ・ピンサロ』という感じで、ミラーボールにユーロビート系の音楽、ピンサロ業界の隠語満載の店内放送で満たされていました。
でも、私はこういう作り出された空間って好きなんです(笑)

で、お約束のボックスシートに案内されると、ボーイさんが「ご指名はありますか?」と聞いてきました。
私は笑いながら「いや、店の前のボーイさんの雰囲気で入っただけだから、全くのフリー。性格の良さそうな女の子がいればお願い」と、実現することはまず無いだろうと自嘲しながらお願いしました。
ボーイさんの「了解です」との返事をほどほどに聞き取って、とりあえず周囲を見てました。
ま、ピンサロですねw

しばらくして細身の女性が、「失礼しまーす」と私の席にやってきました。

スリップのような衣装から見える体型は普通です。
胸がないのもわかりました。
彼女は手書きの名刺を差し出し、「◯◯です。よろしくお願いします」と声を掛けてきました。
方言も残る田舎のお店でしたが、標準語の非常にきれいな言葉遣いです。

私は(いい子だなぁ)と直感し、「こちらこそ、お願いしますね」と答えました。
(悲しいかな私、年下だろうが姫とタメ口で話せないんです。敬語ではないですけど)

彼女はおしとやか系の女性で、特に過激なサービスもテクニックもなく、ごく普通でした。
でも、彼女が真面目で一生懸命なのはよく分かりました。
私が「触ってもいいですか?」と聞けば、ちゃんと、「はい」と小気味よい返事が返ってきて体をずらしてくれました。
お客さんと真正面から向き合って接客してくれているという感じの女性。
年齢はまだ22歳のことでした。
会話自体もお仕事がどーたらこーたら、今日は忙しいかどうかだの、ありきたりな会話で終始しました。
ただ、受け答えが非常に丁寧なのが印象的でした。
ユーロビートの響く店内でもちゃんと語尾まで聞き取れるはっきりとした言葉遣い。
色々考えると、私の好きな姫というのは“言葉のきれいな女性”なのかも知れません。
言葉遣いが丁寧な女性はほぼそれに比例して所作もきれいで、性格も素直な人が多いような気がします。
彼女はまさにそんな感じでした。

それから一月ほど経って、個人的な生理現象のサイクルが巡ってきたのか(笑)、私はもう一度そのお店に行ってみることにしました。
もちろん、彼女を指名です。
その日はたまたまお祭りがあったので、夜店でベビーカステラを買っていきました。
ま、お祭りの日に働いている女性に、少しお祭りの雰囲気をお裾分けする感じですね。
店前には前に会った男性店員がいましたが、こっちのことは覚えていないようでした。

で、「◯◯さん、出てますか?」と聞くと、「大丈夫です!」との元気なお返事。

お店に入ると、お祭りの影響かそんなに人は居ないようでした。
彼女はすぐにボックス席に来ましたが、そこで今回のおみやげを渡しました。
すると、前回と違って明るめの口調で、「あれ、ひょっとして、前にもおみやげを持って来て下さった方ですか?」と聞かれました。
これ、何気ない会話かも知れませんが、私は『持って来て下さった方』という彼女の自然な丁寧語にすっと惹かれていました。

前に来た客がリピートして指名してくれる。
これは風俗で働く女性にとっては収入に直結することだけに当たり前に嬉しいことかも知れません。
けど私の拙い経験からは、彼女の話口調からはそういう金銭的な嬉しさは感じられませんでした。
(そう感じさせないのがプロ中のプロなのかも知れませんけどね)

「覚えてもらってましたか?」

こっちも自然と嬉しそうに答え、なぜか急に親しくお話出来るようになりました。
するとサービスも前よりずっと能動的な感じになり、すっかりおまかせで気持ちよくしてもらえました。

これを機に月イチの通いが始まりました。
4度目くらいの入店で、彼女は私とはすっかり打ち解けてくれたように思います。
で、彼女の警戒心も無くなってきたように感じたところで、まずは言葉遣いについて聞いてみました。

「◯◯さん、ここの人じゃないよね。きれいな標準語だけど」

そう切り出すと、彼女は言葉を濁すどころか、こちらが期待していたお返事以上のお話をしてくれました。

彼女はとある離島の多い県の、その中でも田舎の地方出身で、歯科衛生士の専門学校への入学を機に都会に出てきました。
で、学校は普通に卒業し、関係の職場に就職したのですが、人間関係がうまくいかず続けられなくなったそうです。
数ヶ月で退職したものの、働かなくてはいけません。
特に都会は住居費が高く、正社員での収入が前提で始めた生活はバイトなどで補うことは困難です。
でも、田舎独特の他人様の目や、送り出してくれた親のことを考えると、働き始めてすぐに実家に戻るほど図太い神経もありません。

そんな時、ある情報誌で『寮あり。簡単な飲食関係のサービス』といった風俗関係にありきたりな求人が出ているのを目にしたそうです。
勤務地は今住む都会から電車を乗り継げば4時間足らず、飛行機の路線もある少し離れた、ある県庁所在地でした。
引っ越し費用や入居の際の費用も面倒を見てくれるという好待遇に、彼女は仕事の内容を精査せず、喫茶店のウェイトレスか温泉旅館の仲居、最悪でも水商売のホステスみたいなものと考えていたそうです。
(まぁピンサロも行政上の許可は『特殊飲食業』で、飲食業の範疇ですが)
住居費の負担がほとんど無いというのは、当時の彼女にとってはものすごい厚遇だったのでしょう。

ところが行ってみたら、そこはピンサロ。
風俗店の存在自体を知らないほど世間知らずではなかったとのことですが、まさか自分が風俗で働くことになっているとは思いもしなかったそうです。
ただ、引っ越しも終わって、ワンルームマンションに入ってしまった以上、引くことも出来ません。
何より彼女は仕事がコロコロ変わることで田舎のお母さんに心配をかけたくなかったそうなのです。
そんな複雑な感情と共に、このお店で働くことになったというのが彼女のお話でした。

ちなみにきれいな言葉遣いのナゾについては、「都会に出てきた時に田舎出身を誤魔化そうとしてたら、自然と標準語を勉強してたんですよ」と笑って答えてくれました。
でも美しい言葉遣いは短期間で身につくものではないので、もともとの育ちの良さという基礎があったからだろうなと、私は受け止めていました。

ところで、尊敬語・丁寧語・謙譲語をものの見事に使いこなす彼女の唯一の例外は、自分の母親のことを他人に話す場合に「母」と言わず、「私のお母さん」と言うことでした。

「私は胸がないんだけど、私のお母さんはおっきいんですよ。なんで遺伝しなかったんだろ」みたいな感じです。

甘えん坊で、本当にお母さんが好きだったみたいです。

月イチとはいえ常連に近い存在になると男性従業員さんとも仲良くなります。
彼らからも彼女のことを聞きましたが、それはもうベタ褒めに近いものでした。
(まぁ、自分のお店の姫を悪く言う店員はあまりないと思いますけどね)

彼女は働き始めてから無遅刻・無欠勤。
言われたことはちゃんとこなす、どこのお店に行っても通用する模範的な姫だとのことでした。
当たり前のことがちゃんと出来る女性だったんですね。
仕事のきっかけが不本意なものであったとはいえ、働くことを覚悟した以上はきっちりと働くというのは彼女の培ってきた信念だったのでしょう。

しかし長く通っていると、今度は“いつ退店するんだろう?”という心配も高まってきます。
そんな心配は通い始めて1年ほどして現実のものとなりました。
毎回帰る前に、「お店やめる前には一言言って下さいね」と、軽い感じでお願いをしていたのですが、その日は「はい」という返事ではなく、「退店は来月末になりました」とのお返事が。

彼女がお店を退店する理由。
それは「お母さんと一緒に暮らせるようになったから」でした。
都会に出て行ってから数年が経ち、幸い実家付近で勉強してきた分野の仕事が見つかったので、もう実家に戻っても田舎特有の変な陰口が立つ恐れはなく、安心して帰れるとのことでした。

彼女の最後の出勤の日、私は最終受付ギリギリの入店で彼女を指名し、最後の挨拶をしました。
そのお店は閉店までいると、最後は女の子全員が通路に並んでお見送りをしてくれます。
その際、なぜか70年代に大ヒットしたある歌謡曲が、エンドレスで流れているのですが、それがこのお店のエンディングテーマでした。
ところが、その日にかかっていたのは『蛍の光』。
この選曲は場内アナウンス担当の男性スタッフのものでした。
彼はこう言いました。

「本日をもちまして、当店の◯◯嬢が卒業いたします。私共、数多くの退店を見送ってきましたが、この曲を流して卒業を祝う女性は数えるほどしかありません。ご贔屓いただいた多くのお客様、誠にありがとうございました。また、従業員も一同、◯◯嬢に感謝の気持ちを伝えたいと思います」

そのお店では『蛍の光』は惜しまれながら去っていく姫だけに許される特別の曲だったのです。

最も出口に近い辺りに並んでいた彼女が感涙に咽んでいたかどうかは分かりません。
ただ、最後の最後に彼女は、「今日までお世話になりました」と、いつもと同じきれいな言葉と共にリボンのかかった小袋を渡してくれました。
私は上手に最後の挨拶をすることが出来ませんでしたが、しっかりと握手をしてお別れすることが出来ました。
帰り道がとても寂しかったですけど。

家に帰って小袋の中を見ると、バーバリーの暖かそうな靴下が入っていました。
田舎でお母さんと仲良く暮らしていることを心から祈っています。

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