未亡人になっていた元カノと高校生の娘[後編]

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ミソノ邸の売却が決まり、引越し準備の整った家に俺はいた。
ただでさえ引越し前夜というのは感傷的になるものだが、ミソノ母子にとっては万感の思いがあっただろう。
暗い雰囲気を打ち消すように努めて明るく振舞っていたように見えた。

ミソノ「オレくん、小ミソノちゃん、お待ちどおさま。ミソノ家特製のスペシャル鍋ですよ~」

小ミソノ「うわっ、まるっとカニが入ってるしっ!こんなの初めてじゃん!w」

ミソノ「めっ!本当のことを言ってはいけませんっ!ふふっ」

オレ「おっ、豪盛だなぁ~」

ミソノ「では、召し上がれ」

オレたち三人は、きゃっきゃっ言いながら鍋を囲んだ。
ミソノもオレもアルコールが入ったせいでテンションが上がって楽しかった。
食後はトランプをしたり、カラオケもどきで楽しんだり大いに盛り上がった。
オレは、この家最後の夜をミソノの願い通り楽しいものにできて満足だった。

そして・・・。
いつの間にか深夜になり、小ミソノは自分の部屋に戻った。
ミソノとオレは二人きりで居間のコタツに入りお茶をすすっていた。

ミソノ「なんだか不思議な気分・・・」

オレ「そうだな」

ミソノ「あの人には悪いけど、ずっと前からオレくんと一緒にいたみたい」

オレ「そんなこと言うもんじゃないよ」

ミソノ「そうね・・・あの人のおかげで小ミソノがいるんだし・・・。今の私にとっては小ミソノだけが生き甲斐・・・グスッ」

オレ「そうだよ。大事にしてあげなきゃ。困ったことがあったら何でも言ってよ。できる限りのことはするから」

ミソノ「オレくんって優しいのね・・・」

テレビがすでに梱包されていたせいもあり、居間は音もなく静かであった・・・。

ミソノ「オレくん・・・そっちに行ってもいい?」

向かい側にいたミソノが躊躇いながら小声で呟くように言った。

オレ「・・・」

オレの返事を待たずにミソノが左横に座る。
そういえば、付き合ってる頃はいつも左側にいたっけ・・・。
何も言わずオレにもたれかかるミソノ。
彼女に絡めとられた左腕の自由が利かない。
ここでオレの脳内では再び緊急安全保障理事会が招集された。
しかし相手は同い年、かつ分別のある大人、しかも元カノということで前回よりは危機レベルが相当低く設定されたしまったようであるw
そして今回提案された選択肢は・・・。
満場一致、オールグリーンの進路クリアで“全軍全速前進!”の一択であったw

こうなると、もう止まらない。
どちらからともなく近づいて唇を重ねた。
オレは20年前に果たせなかった思いを込めて燃え上がった。
全身が熱くなる。
そしてオレは彼女を寝室までいわゆるお姫様だっこで連れて行く。
彼女はこんなに華奢だったのか?とその軽さに驚きながらもベッドに下ろす。
その瞬間、彼女の何かが弾けた感じがして、瞳が突然潤みだす。
彼女が急に積極的になりオレの首に腕を絡めて強く引き寄せる。
オレは彼女の反応に若干驚きながらも、さらに気合いを入れたのだが・・・。

オレは彼女の焦点が、オレには合っていないことに気づいた。
涙に濡れた瞳は確かにオレを見つめているのだが、オレを見ているわけではない。
オレは戸惑った。
彼女が急に遠ざかる気がした。
確かに彼女はオレの腕の中にいる。
いや逆だ、彼女がオレに抱きついているのだが、心はどこか違うところにあったのだ。

そして、次の瞬間・・・。
彼女は号泣し始めた。
激しい嗚咽を漏らしながらオレに激しくしがみついたまま、オレの知らない男性の名を何度も何度も叫んだのだ。
それが、この寝室の主であろうことは想像に難くない・・・。

オレは、ただ呆然と彼女を見つめていた。
別に腹が立ったわけではない。
悲しかったわけでもない。
惜しかったなんて、とんでもない。
うまく言葉にできないが、愛する人を失った女性の辛い心の中を素手で触ってしまったような、切ない、やるせない気分だったのだ。
やがて彼女の腕から力が抜けてオレからするするっと外れた。

残念ながら、この状態から一仕事できるほど、オレは太い神経の持ち主じゃない。
いや、10代の頃ならこんな状況でもマグロ状態の女を抱けたかもしれない。
でも、もうすぐ40だもんな。
亡くなった人の名を叫んで号泣する女性を、どうにかするなんて悪趣味なことはできんわな。
オレは、ただ彼女に寄り添い、ずっとその髪を撫でるしかなかったのだ。

そして、朝が来た。
引越しのトラックがやって来て、オレは普通にそれを手伝ったわけだが、作業員に「ご主人」と呼ばれた時にはかなり慌てた。
なぜなら、傍にいたミソノがピクッと反応したような気がしたからだ。
ミソノはエプロン姿で忙しそうにしていた。
昨夜のことは何も言わない。
小ミソノは、相変わらずオレに纏わりついていたが、それは無邪気な仔犬のようであり、以前の小悪魔的な雰囲気を感じることはなかった。
おそらく母ミソノが亡き父を呼ぶ悲しい叫び声は彼女にも聞こえていただろうから・・・。

大きな家にも関わらず荷物は少なく、作業は午前中で終わった。

ミソノ「オレくん、色々とありがとうね。ふふっ」

小ミソノ「オレさん、落ち着いたらまた連絡するねっ!」

オレ「おおぅ!じゃまた」

ミソノ&小ミソノ「じゃね~!!」

何事もなかったかのような明るい笑顔を残してミソノと小ミソノは引越しのトラックに同乗していった。
どうやら最寄駅までは乗せてもらえるらしい。
オレは、それに乗ることはなく、二人とトラックを見送りながら、そういえば引越し先って聞いてないのな・・・と考えていた。

そして土曜日・・・、ミソノは受付にいなかった。
なんとなく覚悟はしていたが、きちんと別れを告げたかった。
正直に言うと未練がなかったわけではない。
でも、それは是が非でも食ってやろうとか、そういう感じではなく、なんだか母子が心配だったような、本当に何かできることはないのだろうかとか・・・。
いや、理屈では分かってるんだ。
オレには何もできないことくらい・・・。
でも、ホントに何もできなかったんだよねぇ。
結局、最後の夜も悲しい思い出を作っちまっただけだし。

オレは、携帯を取り出してみた。
ミソノに掛けてみる。
『お掛けになった電話番号は現在使われておりません』
小ミソノの番号も同じであった。

受付の女性に、「ミソノさんは、どうされたんですか?」と聞いてみた。

女性「ミソノさん?私、今週入ったばかりなので古い人のことは分からないんです」

オレ「そうですか・・・」

オレは、いつもの喫茶店で独り放心状態だった。
20年前の半年間と、ついさっきまでの半年間が頭の中で絡み合っている・・・。
高二のミソノと現在の小ミソノの姿が被ってしまい、現在と過去、夢と現実が混乱している。
つい先日まで、向かいの席に美しい母子が微笑みながら座っていたのが現実のことだったのかどうかすら定かでなくなってきた。
ひょっとしたら、オレは毎週この時間にここでうたた寝をして夢を見ていただけなのかもしれない。

そんなことを考えていると・・・。
そこへ、教室のマネージャーらしき男性が走ってきた。

男性「オレさんですよね?これミソノさんから預かってます。彼女は昨日辞めたんですよ。彼女、急に転居が決まったようで、オレさんによろしくお伝え下さいとのことでした」

そう言うと1枚のCDを差し出した。

男性「ちゃんとお渡しできてよかったです。末っ子ちゃんは来週で終わりでしたよね?」

オレ「そうでしたね。来週で卒業でしたね。ありがとうございました」

その言葉を聞くと男性は教室に戻っていった。
オレの手にあるのは、何の変哲もない普通の音楽CDであったが・・・。
オレはハッとした。
まさかと思って中を開けると、小さく折られた手紙が入っていた。
急いで開けると・・・そこには見覚えのある文字・・・。

『あなたとの関係は、友達以上だけど恋人ではない』
『例えると家族みたい』
『なくてはならないけど、特別な存在ではない』
『例えると空気みたい』

という内容が書かれてあり、最後は『ありがとう』で締めくくられていた。

完。

<エピローグ>
予定のない休日の午後、俺は嫁と二人でボーっとテレビを観ていた・・・。

嫁「・・・アンタ、最近変じゃない?」

俺「なにが?」

動揺を悟られないように、あくまでも自然体を装う。

嫁「この間まで妙にイキイキしてたかと思えば、最近は溜め息ばかり吐いてるし。それに・・・なんか・・・激しいし///」(モジモジ)

俺「おまっ、ひっ、昼間っから何を言・・・」

言いかけた言葉を待たずに嫁が俺の胸に飛び込んできた。

嫁「何があったか知らないけど、誰にも渡さないんだからっ!」

俺の胸に顔を埋めた嫁が言う。
もしかして泣いているのか??

俺「・・・うん」

急に嫁が愛おしく感じて、ぎゅっーと抱き締める。

嫁「もふっ・・ぅん・・・」

艶っぽい声を出したかと思うと、頭を俺の胸にグリグリしながら俺の顔の辺りまでズリ上がってくると・・・。

嫁「ねぇ!今度、家族でテーマパークに行かない?」

満面の笑みであったw
どうやら何もかもお見通しのようであるw
ちなみに、その夜のメニューはカニすきであった。
女の勘は恐ろしいw

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